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最高裁判所第三小法廷 昭和29年(オ)858号 判決 1956年4月10日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人中村喜一の上告理由第一、第二点について。

下級審に差し出された訴訟書類の正本に貼用された印紙に不足があつた場合に之を上級審に於て追貼すればその瑕疵は補正されその書類は始めに遡つて有効となるものと解するを妥当とする。(最高裁判所昭和二四年(オ)第一七号事件、同年五月二一日第二小法廷判決。大審院昭和一七年(オ)第一三〇号事件、昭和一九年二月二五日第一民事部判決。同昭和六年(オ)第三七二五号事件、昭和七年五月一七日第五民事部判決。参照)。本件について之をみると、被上告人が原審に提出した昭和二五年一〇月三日付、昭和二七年九月二七日付、昭和二九年二月三日付の各「請求ノ趣旨変更ノ申立」と題する書面に貼用すべきであつた印紙の不足額を当審に於て追貼したことは記録上明白であるから、之によつて右書面はその提出当時に遡つて有効となつたのである。所論は右と反対の見解に立脚し或はその無効であることは前提とするものであつて理由がない。

同第三点について。

記録によると、原審が証拠資料なくして甲第一四乃至第二三号証の成立を認定した違法の存することが認められる。けれども、原審認定に係る事実は右書証以外の原判決挙示関係証拠のみを以てしても之を認定するに足ることが記録により窺われるのであつて、その瑕疵は原判決主文に影響を及ぼさないものと認められる。されば、原判決に所論理由不備の違法ありと為し難く、此の点に関する論旨は理由がない。

同第四、第五点について。

記録によれば、被上告人は昭和二〇年九月頃上告人との間において、立替資材一〇〇噸九〇瓩の返還に関する契約が成立したことを主張し、その履行として一部の引渡及び執行不能の場合に於ける代償の支払を請求するのであり、原判決は右請求趣旨原因により特定された訴訟物に対して為されたにほかならずそれ以上のものでも以下のものでもないことが明かであつて、原審に所論の如き民訴一八六条違背及び二二四条の解釈適用を誤つた違法は認められない。されば右点に関する論旨は理由がない。

その余の論旨は、原判決に影響を及ぼすことの明かな法令の違背を主張するものと認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 本村善太郎 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己)

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